■私たちの薬をめぐる現状と課題
「副作用がつらい」「症状がなかなか治まらない」――薬に対する気持ちは、単純なものではありません。それでも近年、SLE(全身性エリテマトーデス)の治療の選択肢は着実に広がり、5年生存率も向上しています。2023年から2025年にかけて膠サポが実施したアンケートでは、SLE患者さんが症状や治療についてさまざまな悩みを抱えていること、そして新しい薬への希望のひとつとして“治験”に関心を持っていることが明らかになりました。
一方で、私たちはお薬をつくり、届けてくれている製薬企業について、実はあまり知る機会がありません。製薬企業の方々はどんな仕事をしているのか、どんな想いで薬を開発し、届けようとしているのか――。そうした素朴な疑問をきっかけに、私たちSLEワーキングチームは、製薬企業の皆さんに直接お話をうかがう「ヒアリング活動」を始めました。
■各社の取り組みから見えたこと
2025年の啓発月間にあわせて、3社の製薬企業から、それぞれの工夫や姿勢についてお話をうかがいました。(ご紹介する企業を社名の五十音順で掲載しています)。
▶旭化成ファーマ株式会社
旭化成ファーマ株式会社では、薬の形状や飲みやすさ、注射器の使いやすさに至るまで、「患者さんが実際にどう感じるか」を大切にしてお薬を開発しているとのことでした。例えば、ステロイド薬の1mg錠の開発は「少しずつ減薬したい」という声に応えて作られたもので、今では私たちにとってなくてはならない存在になっています。また、眼障害の副作用が心配される免疫調整剤については、定期的な眼科検診の受診を促すための資材や情報提供も行われています。患者さんの声を取り入れながら作られた服薬支援アプリ「ハピるん」は、私たちの健康管理をサポートする工夫が詰まっており、体調や心の状態に気持ちを向けながら、治療生活を送るための便利な機能が取り入れられています。→服薬支援アプリ「ハピるん」はこちら
治験についても、患者さんが不安なく参加できるよう、説明資料の改善や、臨床試験後のアンケートの実施など、少しずつ私たちの声が反映されてきているそうです。開発や情報提供に関わる一つひとつの工夫の背景には「患者さんに安心して治療を受けてほしい」という思いがあることを、今回私たちは知ることができました。
▶アストラゼネカ株式会社(AZ)
アストラゼネカ株式会社では、治験に参加する患者さんの負担を少しでも減らすための工夫が進められているそうです。たとえば、来院回数を抑える「遠隔治験」の導入や、治験前のトレーニング支援などが行われており、私たちが安心して参加できる環境づくりが進められているとのことでした。
また、医薬品開発の早い段階から「患者さんの声」を取り入れる工夫もされているようです。治験計画書に意見を反映する、治験実施施設での対話を通じて現場の声を集める、患者会を通じた情報共有など、さまざまな工夫が紹介されました。さらに、開発中の医薬品に関する情報が検索できるウェブサイト上で公開されていることも、心強い取り組みのひとつです。
→アストラゼネカ臨床試験(治験)の検索「Search My Trail」はこちら
治験はまだ「実験」のような印象をもたれがちで、選択肢として知られていないのが現状です。しかし、アストラゼネカ株式会社(AZ)では「治験を治療の一環とする」文化を育てようとしており、実際に臨床試験の場でも患者さんとの対話を大切にしているというお話でした。私たちもこれまで「薬は処方されるもの」として受け取ることが多く、その背後にある努力や想いに触れる機会は限られていました。今回のヒアリングでは医薬品が「ともにつくるもの」であるという考えに触れることができました。こうした活動が、私たちにとってより納得できる医療につながっていくのではないかと感じています。
▶グラクソ・スミスクライン株式会社(GSK)
グラクソ・スミスクライン株式会社(GSK)では「患者さんが前にいることを忘れない」という姿勢が企業全体で共有されていることが印象に残りました。自己注射への不安を軽減するためのサポートツールや、使いやすさを考慮したお薬の改良なども検討されており、治療を続けるためのアイデアがいろいろな面から考案されていました。例えばSLEの疾患啓発サイトには、患者である私たちだけでなく、家族や会社の皆さんに向けた情報が丁寧に整理されており、イラストなどを交えて誰にでも伝わる工夫が随所に見られました。こうした情報発信を通じて、病気について周囲の理解を促すきっかけになればという思いがあるそうです。また、短い診察時間の中でも私たちが自分の気持ちや症状を伝えやすくなるよう、「先生との相談ヒント集」というツールも用意されていました。私たちの「どう話せばいいかわからない」という戸惑いに寄り添い、背中をそっと押してくれるような内容になっています。→SLEとともに歩む、自分らしいライフスタイル「with-SLE」はこちら
治験や市販後の情報については、伝えられる範囲に制約がある中でも、“正確でわかりやすい情報を患者さんに届けるにはどうしたらよいか”を常に考えているとのことでした。患者さんたちとの対話も繰り返し行われていて、“より良い情報提供の方法をともに考えていきたい”という言葉が印象的でした。
■おわりに
治療がうまくいかない日や、副作用に悩む日もある中で、製薬企業の皆さんが私たちに寄り添いながら工夫を重ねてくれることを、今回のヒアリングを通じて知ることができました。私たちは、患者自身の声がより多く医療の現場に届き、より良い薬や制度づくりに反映されていくことを願っています。そして、そうした未来に向けて、声を上げ続けていきたいと考えています。